はじめに
「お客様からクレームが入った。」
経営者にとって、できれば聞きたくない報告の一つではないでしょうか。
しかし、どれだけ丁寧に仕事をしていても、クレームを完全にゼロにすることは簡単ではありません。
商品の不具合。
納期の遅れ。
説明不足。
担当者の対応。
認識の食い違い。
そして、ときには会社側に明確な落ち度がなくても、お客様の期待とのズレから不満が生まれることもあります。
だからこそ重要なのは、「クレームを出さない会社」を目指すだけでなく、「クレームが発生したときに適切に対応できる会社」をつくることです。
クレーム対応を担当者個人の経験や判断に任せてしまうと、初動が遅れたり、対応にばらつきが出たり、問題をさらに大きくしてしまう可能性があります。
反対に、適切な対応ができれば、お客様との関係を修復するだけでなく、自社の商品・サービスを改善する貴重な機会にもなります。
今回は、会社を強くするための「クレーム対応の体制」について考えてみましょう。
■クレームで怖いのは「発生」より「初動の失敗」
クレームが発生したとき、最初の対応は非常に重要です。
例えば、お客様から、
「納品された商品が注文内容と違う。」
と連絡があったとします。
このとき担当者が、
「私は聞いていません。」
「担当部署が違うので分かりません。」
「たぶんお客様の注文方法に問題があったと思います。」
と返してしまえば、商品間違いそのものよりも、会社の対応に対する怒りが大きくなるかもしれません。
まず必要なのは、
お客様の話を聞く。
事実を確認する。
社内で共有する。
対応方針を決める。
そして、できるだけ早く連絡する。
という流れです。
最初の時点で原因が分からなくても構いません。
「確認のうえ、本日17時までに一度ご連絡します。」
と伝えるだけでも、お客様の受け止め方は変わります。
すぐに解決できなくても、すぐに対応を始めることはできます。
■担当者が一人で抱え込む会社は危ない
クレーム対応で避けたいのが、担当者が一人で問題を抱え込むことです。
「自分のミスかもしれない。」
「上司に怒られたくない。」
「もう少し自分で対応すれば収まるかもしれない。」
そう考えて報告を遅らせている間に、問題が大きくなることがあります。
最初は数万円の商品交換で済んだ問題が、対応の遅れによって取引停止や損害賠償の話まで発展するかもしれません。
だからこそ、
「どの段階で、誰に報告するのか」
を決めておく必要があります。
例えば、
通常の問い合わせは担当者。
商品不良や納期トラブルは直属の上司へ即時報告。
返金・損害賠償・契約解除に関する申し出は経営者まで報告。
重大事故や法的問題の可能性があれば専門家にも相談。
といった形です。
重要なのは、クレームを報告した社員を責める文化にしないことです。
報告が早ければ早いほど、会社として取れる選択肢は増えます。
悪い情報ほど、早く上がってくる組織をつくること。
これはクレーム対応だけでなく、強い組織づくりそのものです。
■「誰が対応しても最低限同じ水準」にする
クレーム対応を、
「ベテラン社員なら何とかできる。」
という状態にしてはいけません。
ベテラン社員が休んでいる日に問題が起きることもあります。
新人が電話を取ることもあります。
そこで、最低限の対応ルールを決めておきましょう。
例えば、
- お客様の話を遮らずに聞く
- 発生日時・商品・サービス・状況を記録する
- その場で判断できないことを約束しない
- 誰がいつまでに回答するか伝える
- 上司・責任者へ報告する
- 対応内容を記録する
これだけでも、対応品質のばらつきをかなり抑えることができます。
分厚いマニュアルを作る必要はありません。
まずはA4用紙1枚でも構いません。
「クレームが来たら、まず何をするか」
を全社員が分かる状態にしておくことが重要です。
■謝罪と責任の確定は分けて考える
クレーム対応では、
「こちらに非があるか分からないから、謝ってはいけない。」
と考えてしまうことがあります。
もちろん、事実関係を確認せず、会社の法的責任まで安易に認めてしまうことには注意が必要です。
しかし、
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。」
「ご心配をおかけしております。」
と、お客様が不快・不安な状況にあることに対してお詫びすることと、会社の責任を確定することは別です。
重要なのは、
感情への対応と、事実確認を切り分けること。
お客様の話を受け止めながら、何が起きたのかを冷静に確認していきます。
そのうえで、自社に原因があれば誠実に謝罪し、必要な対応を行います。
■具体例:5万円のミスが「顧客喪失」に変わるとき
例えば、年間300万円の取引があるお客様に対して、5万円相当の納品ミスが発生したとします。
会社側がすぐに状況を確認し、
当日中に謝罪。
翌日に正しい商品を納品。
再発防止策を説明。
その後、責任者がフォロー。
ここまでできれば、取引を継続していただける可能性は十分あります。
一方で、
担当者が3日間放置。
お客様から再度連絡が来る。
社内で情報共有されていない。
別の担当者が「聞いていません」と回答。
ようやく交換したものの、その後の説明もない。
となればどうでしょうか。
もともとの損失は5万円だったはずです。
しかし対応を誤れば、年間300万円の取引そのものを失う可能性があります。
さらに悪評が広がれば、新規顧客の獲得にも影響するかもしれません。
クレーム対応は、単なる「お客様対応」ではなく、売上・利益・信用を守る経営課題です。
■「誰が悪かったか」より「なぜ起きたか」を見る
クレームが発生すると、
「誰がミスしたんだ?」
と犯人探しから始めてしまう会社があります。
もちろん、明らかなルール違反などがあれば個別対応は必要です。
しかし、経営者が本当に確認すべきなのは、
「同じことが、また起きる可能性はないか?」
です。
例えば納品ミスが発生したのであれば、
担当者が間違えた。
で終わらせず、
なぜ間違えたのか。
注文内容を確認する仕組みはあったか。
ダブルチェックは機能していたか。
システム上、入力ミスが起きやすくなっていなかったか。
繁忙期で業務量が過大になっていなかったか。
まで掘り下げます。
個人の注意力だけに原因を求めると、
「次から気を付けます。」
で終わります。
しかし、人はまた間違えます。
再発防止とは、人が気を付けることではなく、間違いが起きにくい仕組みに変えることです。
■クレームを記録し、経営情報に変える
クレーム対応が終わったら、それで終了にしていないでしょうか。
非常にもったいないことです。
クレームには、お客様が感じている問題が具体的に表れています。
そこで、
発生日。
顧客名。
商品・サービス。
クレーム内容。
原因。
対応内容。
発生した損失。
再発防止策。
などを記録します。
そして定期的に集計します。
例えば半年間で、
納期に関するクレーム 8件
説明不足 5件
商品不良 3件
接客対応 2件
だったとします。
この数字を見れば、
「個別対応を頑張ろう。」
ではなく、
「納期管理の仕組みそのものを見直すべきではないか?」
という経営課題が見えてきます。
クレームは、会社の弱点をお客様が教えてくれている情報でもあります。
■クレーム対応には「権限」も必要
現場担当者に、
「お客様に満足してもらえるよう対応してください。」
と言っているのに、500円の返金すら上司の承認が必要。
これでは対応が遅れます。
一方で、担当者の判断だけで何十万円もの値引きや補償を約束できる状態も危険です。
そこで、
1万円以内の返金は店長判断。
それを超える場合は部長承認。
契約解除や損害賠償に関する事項は経営者判断。
といったように、一定の基準を設ける方法があります。
金額だけでなく、
事故。
個人情報。
SNSへの投稿。
法的紛争。
重要顧客。
など、内容によってエスカレーション基準を決めてもよいでしょう。
責任を持たせるなら、同時に判断できる範囲も明確にする。
これが迅速な対応につながります。
■SNS時代は「小さなクレーム」が一気に広がる
現在は、一人のお客様の不満がそのお客様だけで終わるとは限りません。
SNS。
口コミサイト。
Googleのレビュー。
さまざまな場所で、企業への評価が共有されます。
だからといって、悪い口コミを恐れて何でもお客様の要求どおりにすればよいわけではありません。
大切なのは、
事実確認をする。
誠実に対応する。
必要な説明をする。
社内に記録を残す。
そして、同じ問題を繰り返さない。
という基本を徹底することです。
会社に落ち度がない場合には、毅然とした対応が必要になることもあります。
「クレーム対応=何でも謝ること」ではありません。
会社と社員を守ることも、経営者の重要な役割です。
■経営者まで届く仕組みになっているか
もう一つ確認していただきたいことがあります。
現場で発生しているクレームを、経営者は把握できているでしょうか。
現場では毎月クレームが発生しているのに、
「社長に報告すると面倒だから。」
「現場で処理できているから。」
という理由で経営者まで情報が届いていないことがあります。
すべての小さな問い合わせを社長が直接処理する必要はありません。
しかし、
クレーム件数。
主な原因。
金額的損失。
重大案件。
再発状況。
などは、定期的に経営者が確認できるようにしておくべきです。
クレームは顧客満足度だけでなく、業務品質や組織体制の問題を映し出します。
現場の不都合な情報こそ、経営判断に必要な情報です。
■チェックポイント
- クレーム発生時の初動ルールを決めているか?
- 誰に、どの段階で報告するか明確になっているか?
- 担当者が一人で抱え込まない仕組みがあるか?
- 対応内容や経緯を記録しているか?
- 返金・値引き・補償などの権限範囲を決めているか?
- クレームの原因を分析し、再発防止策まで実行しているか?
- クレーム件数や内容を定期的に経営者が確認しているか?
- 重大事故・個人情報・法的問題などの緊急時対応を決めているか?
■まとめ|クレームを「会社が強くなる情報」に変える
クレームは、誰にとっても気持ちの良いものではありません。
できれば発生してほしくない。
それは当然です。
しかし、起きてしまった以上、
「早く終わらせたい。」
だけで処理するのか。
それとも、
「なぜ起きたのか。どうすれば二度と起きないのか。」
まで考えるのか。
ここで会社の強さに差が出ます。
クレームが発生した。
すぐ報告される。
会社として適切に対応する。
原因を分析する。
仕組みを改善する。
そして、同じ問題を減らす。
このサイクルが回る会社は、クレームが発生するたびに少しずつ強くなっていきます。
反対に、
担当者が隠す。
その場しのぎで謝る。
記録しない。
原因分析をしない。
同じクレームを繰り返す。
という会社では、お客様だけでなく社員も疲弊していきます。
経営者として目指したいのは、
「クレームが一件もない会社」ではなく、「問題が起きたときに組織として正しく向き合える会社」です。
まずは自社で直近1年間に発生したクレームを思い出してみてください。
そして、
「同じことが明日起きたら、誰が、何を、どの順番で対応するのか?」
を社員に聞いてみましょう。
答えが人によって違うのであれば、今が体制を整えるタイミングです。
お客様からの厳しい声から逃げない。
その声を、会社を強くする材料に変える。
その姿勢が、長く信頼される会社をつくっていきます。
更なる熱量を。
税理士事務所WATT 代表税理士 井深悠人
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