はじめに
「今期の売上目標は決めている。」
「毎年、予算は作っている。」
それでも、3年後・5年後に会社をどうしたいかと聞かれると、明確には答えられない。
そんな会社は少なくありません。
日々の経営では、売上、資金繰り、人材採用、設備投資、取引先対応など、目の前の課題が次々と発生します。経営者が忙しいほど、「今日やるべきこと」に時間を取られます。
しかし、目の前の課題だけを解決し続けた結果、会社は本当に行きたい場所へ進んでいるでしょうか。
そこで必要になるのが、中期経営計画です。
中期経営計画とは、単なる3年分・5年分の売上予測ではありません。
「将来、どんな会社になりたいのか」を決め、その未来から逆算して、今やるべきことを明確にするための経営の設計図です。
■「来年も前年比105%」は中期経営計画ではない
将来計画を作るとき、
今年の売上が3億円だから来年は3億1,500万円。
その翌年は3億3,000万円。
というように、現在の数字を少しずつ伸ばして作ることがあります。
もちろん、数字を置くこと自体は悪くありません。
しかし、それだけでは「予測」であって、経営計画とは言いにくいでしょう。
本来考えたいのは、
3年後にどの市場で戦っているのか。
売上はいくらになっているのか。
どの商品・サービスが主力になっているのか。
利益率はどうなっているのか。
従業員は何人必要なのか。
どんな組織になっているのか。
設備投資はいくら必要なのか。
資金をどう調達するのか。
という会社全体の姿です。
数字は、経営者が描いた未来を具体化した結果として置く。
この順番が重要です。
■まずは「3年後、どんな会社にしたいか」を言葉にする
中期経営計画を作るとき、最初から細かいExcelを作る必要はありません。
まずは経営者自身が、
「3年後、この会社をどうしたいのか?」
を考えてみましょう。
例えば、
売上5億円を10億円にしたい。
営業利益率を5%から10%へ高めたい。
新しい店舗を3店舗出したい。
特定の取引先への依存度を下げたい。
新規事業を第二の柱にしたい。
社員数を30名から50名へ増やしたい。
社長が現場業務から離れても回る組織にしたい。
後継者へ事業を引き継げる状態にしたい。
目指す姿は会社によって違います。
大切なのは、単に「売上を増やしたい」で終わらせないことです。
売上・利益・組織・商品・顧客・設備・資金・経営者自身の役割まで含めて未来像を描くことが、中期経営計画の出発点です。
■売上だけではなく「利益」まで計画する
例えば現在、
売上高 5億円
粗利益 2億円
営業利益 2,500万円
の会社が、
「3年後に売上10億円!」
という目標を掲げたとします。
勢いのある目標です。
しかし、売上10億円を達成するために、
人員を大幅に増やす。
新工場を建てる。
設備を導入する。
広告費を増やす。
借入を増やす。
ということになれば、売上が倍になっても利益がほとんど残らない可能性があります。
経営で本当に重要なのは、売上だけではありません。
売上を増やした結果、いくら利益が残るのか。
ここまでセットで考える必要があります。
中期経営計画では、
売上高。
粗利益。
人件費。
その他固定費。
営業利益。
経常利益。
などを連動させて考えましょう。
■利益が出ても「お金が足りない」ことがある
さらに重要なのが、資金繰りです。
例えば、今後3年間で、
新工場 5,000万円。
製造設備 3,000万円。
新店舗 2,000万円。
合計1億円の投資を計画しているとします。
利益計画だけを見れば順調でも、投資によって現預金が大きく減少するかもしれません。
では、
自己資金はいくら使うのか。
金融機関からいくら借りるのか。
借入期間は何年にするのか。
年間返済額はいくらになるのか。
投資後も運転資金を確保できるのか。
まで考える必要があります。
利益と資金繰りは同じではありません。
中期経営計画を作るのであれば、損益計画だけではなく、設備投資・借入・返済まで含めて資金の動きを確認することが重要です。
■具体例:3年後に売上10億円を目指すなら
例えば、現在売上5億円、従業員30名の会社が、3年後に売上10億円を目指すとします。
目標だけなら、
「3年間で売上を5億円増やす」
で終わります。
しかし、経営計画に落とし込むと問いが変わります。
既存事業だけで5億円増やせるのか。
新商品が必要なのか。
新しい地域へ進出するのか。
営業担当者は何人必要なのか。
生産能力は足りるのか。
設備投資はいくら必要なのか。
管理部門は現在の人数で対応できるのか。
運転資金はいくら増えるのか。
こうして分解すると、
「売上10億円」という目標が、営業・採用・設備・財務それぞれの具体的な課題に変わっていきます。
これこそが、中期経営計画を作る意味です。
■「人」の計画を忘れない
成長計画を作るとき、数字ばかりに目が向き、人員計画が抜けることがあります。
しかし、売上が増えれば仕事量も増えます。
現在10名で売上2億円の会社が、3年後に売上5億円を目指すのであれば、
何人必要なのか。
どんな職種が必要なのか。
管理職は誰が担うのか。
採用はいつ始めるのか。
教育期間はどれくらい必要なのか。
給与水準をどうするのか。
まで考えなければなりません。
例えば3年後に管理職が3人必要なのであれば、3年後に探し始めても間に合わないかもしれません。
今いる社員を育てるのか。
外部から採用するのか。
未来の組織から逆算して、今から人材に投資する。
これも中期経営計画の重要な役割です。
■「やらないこと」も決める
中期経営計画を作ると、
新規事業。
新店舗。
採用。
設備投資。
DX。
海外展開。
M&A。
など、やりたいことが次々と出てくるかもしれません。
しかし、中小企業の経営資源には限りがあります。
人も。
お金も。
経営者の時間も。
無限ではありません。
だからこそ、
「何をやるか」と同じくらい、「何をやらないか」を決めることが重要です。
例えば、
今後3年間は既存事業の利益率改善を最優先する。
採算の低い商品から撤退する。
新規出店は2店舗までにする。
社長しかできない業務を減らす。
といった判断です。
経営計画とは、夢をすべて詰め込むものではありません。
限られた経営資源を、どこへ集中させるかを決めるものでもあります。
■計画は「銀行に見せるため」だけに作らない
金融機関から融資を受ける際、事業計画書を求められることがあります。
そのため、
「銀行に言われたから計画を作った。」
という会社もあるでしょう。
もちろん、金融機関に自社の将来性や返済可能性を説明するうえで、中期経営計画は非常に有効です。
しかし、本来一番使うべきなのは経営者自身です。
設備投資をするか。
採用するか。
借入を増やすか。
新規事業へ進出するか。
役員報酬を増やせるか。
こうした経営判断をするとき、
「この判断は、3年後に目指す会社へ近づくものか?」
という基準ができます。
計画があることで、目の前の判断に一本の軸が通ります。
■計画は一度作って終わりではない
3年計画を作ったからといって、その数字を3年間絶対に守る必要はありません。
原材料価格が上がる。
大口取引先を失う。
想定以上に売上が伸びる。
優秀な人材を採用できる。
新しい事業機会が生まれる。
経営環境は常に変化します。
だからこそ、
計画と実績を毎月比較することが重要です。
売上は計画比何%か。
粗利益率はどうか。
人件費は想定内か。
営業利益はいくらか。
現預金はいくらあるか。
設備投資は予定どおりか。
そして、
「なぜ差が出たのか?」
「今後どうするのか?」
を考えます。
計画は未来を正確に当てるためのものではありません。
計画と現実のズレを早く発見し、経営判断を修正するためのものです。
■中期計画を「今年・今月・今日」まで落とし込む
3年後の目標を決めても、それだけでは現場は動きません。
例えば、
3年後:売上10億円
↓
来年度:売上7億円
↓
今期:売上6億円
↓
今月:売上5,000万円
と分解します。
さらに、
新規顧客○社。
商談○件。
採用○名。
設備稼働率○%。
粗利益率○%。
など、現場が行動できる数字まで落とし込みます。
すると、
「3年後に売上10億円を目指す。」
という大きな目標と、
「今月、何をするのか。」
がつながります。
中期経営計画が本当に力を発揮するのは、未来の目標が今日の行動につながったときです。
■チェックポイント
- 3年後・5年後にどんな会社にしたいか言葉にできるか?
- 売上だけでなく、粗利益・営業利益まで計画しているか?
- 設備投資・借入・返済を含めた資金計画があるか?
- 将来必要になる人員数・職種・管理職を考えているか?
- 成長のために「何をやらないか」も決めているか?
- 中期計画と単年度予算がつながっているか?
- 毎月、計画と実績を比較しているか?
- 計画と実績の差から、次の経営判断につなげているか?
■まとめ|未来から逆算して「今」を決める
会社経営には、正解がありません。
3年後の景気も分かりません。
市場がどう変わるかも分かりません。
だから、
「将来なんて分からないから、計画を作っても意味がない。」
と思うかもしれません。
しかし、未来が分からないからこそ、経営者自身が「どこへ行きたいのか」を決める必要があります。
中期経営計画は、未来を予言するためのものではありません。
目指す場所を決める。
必要な売上と利益を考える。
必要な人材を考える。
必要な設備を考える。
必要な資金を考える。
そして、そこから逆算して今やるべきことを決める。
そのための道具です。
経営者が明確な方向を示せば、社員も、
「なぜ今、この仕事をしているのか。」
「なぜこの数字を追っているのか。」
を理解しやすくなります。
金融機関や取引先に対しても、自社がどこを目指しているのかを説明しやすくなります。
そして何より、経営者自身の意思決定が変わります。
まずは難しい計画書を作る必要はありません。
紙を一枚用意して、
「3年後、この会社をどうしたいか?」
を書いてみてください。
次に、
「そのために、1年後どこまで進んでいる必要があるか?」
を考える。
そして、
「では、今月何をするか?」
まで落とし込む。
未来は待っていれば勝手に理想の形になるものではありません。
自分たちで描き、数字にし、行動し、修正しながらつくっていくものです。
中期経営計画を、棚にしまっておく資料ではなく、会社を前へ進めるための武器にしていきましょう。
更なる熱量を。
税理士事務所WATT 代表税理士 井深悠人
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