はじめに
「お客様の情報は、担当者が一番よく分かっている。」
中小企業では、よくある状態です。
もちろん、お客様との信頼関係を築いている担当者が詳しいこと自体は素晴らしいことです。
しかし、
「前回、いつ連絡したのか分からない。」
「商談内容が担当者の手帳にしか残っていない。」
「担当者が退職したら、お客様とのやり取りが分からなくなった。」
こんな状態になってはいないでしょうか。
顧客情報は、営業担当者個人のものではありません。
会社にとって非常に重要な経営資産です。
その顧客情報を会社として蓄積し、営業やサービス改善に活かす仕組みがCRM(顧客管理システム)です。
■CRMは「顧客名簿」ではない
CRMとは「Customer Relationship Management」の略で、直訳すると「顧客関係管理」です。
CRMというと、「顧客名や住所、電話番号を登録しておくシステム」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、本来の目的は単なる名簿管理ではありません。
例えば、
- いつ問い合わせがあったのか
- どの商品・サービスを購入したのか
- 過去にどんな提案をしたのか
- どんな相談や要望があったのか
- 次にいつ連絡するのか
- 誰から紹介されたのか
といった情報を蓄積し、お客様との関係をより良くしていくために活用することが目的です。
■顧客情報を「担当者の頭の中」に置かない
営業担当者が、
「あのお客様は来月あたりに連絡した方がいい。」
「以前こんな相談を受けていた。」
と覚えていたとしても、それだけでは会社の情報にはなっていません。
担当者が休職したらどうでしょうか。異動したらどうでしょうか。退職したらどうでしょうか。
お客様から、「前回お話しした件ですが……」と言われても、会社として把握できていなければ、信頼を損なう可能性があります。
大切なのは、「○○さんが知っている」から「会社が知っている」状態へ変えること。
CRMは、そのための仕組みです。
■営業の「抜け漏れ」を防ぐ
CRMが効果を発揮する場面の一つが、営業管理です。
例えば、見積書を提出したお客様。
「検討します。」と言われ、そのままになっていないでしょうか。
1週間後に連絡する予定だったのに、忙しくて忘れてしまう。
これは非常にもったいないことです。
CRMに、
次回連絡日:9月10日
次回アクション:見積内容についてフォロー
と登録しておけば、対応漏れを防ぐことができます。
営業活動では、特別なテクニック以前に、
「必要なタイミングで、必要な行動を確実に行うこと」
が重要です。
CRMは、その基本動作を会社として徹底するためにも役立ちます。
■「どんなお客様が多いのか」を数字で見る
顧客情報を蓄積すると、経営分析にも活用できます。
例えば、
「どの業種のお客様が多いのか?」
「どの地域から問い合わせが多いのか?」
「どの商品を購入したお客様の継続率が高いのか?」
「どの営業経路から成約したお客様の単価が高いのか?」
といった分析です。
感覚では、
「紹介のお客様が多い気がする。」
と思っていても、実際に集計してみるとホームページ経由の成約が増えているかもしれません。
顧客情報が整理されていれば、「どんなお客様に、どんな商品を、どのように提案すればよいか」を数字から考えられるようになります。
■既存顧客への提案にも活用できる
売上を増やそうとすると、どうしても新規顧客の獲得に意識が向きます。
しかし、すでに自社を利用していただいているお客様にも、大きな可能性があります。
例えば、
ある商品を購入したお客様に関連商品を案内する。
契約更新時期が近いお客様へ事前に連絡する。
以前相談を受けた内容に関連する新サービスを紹介する。
長期間利用のないお客様へ状況を確認する。
こうした提案も、顧客情報が整理されているからこそ可能になります。
CRMは、新規営業のためだけではありません。
今いるお客様との関係を深め、LTV(顧客生涯価値)を高めるための仕組みでもあるのです。
■CRM導入で失敗する典型例
ここで注意したいことがあります。
それは、「CRMを導入すること」が目的になってしまうことです。
高機能なシステムを導入したものの、
入力項目が多すぎる。
社員が入力しない。
情報が更新されない。
結局、Excelや個人の手帳に戻ってしまう。
これでは意味がありません。
CRMで重要なのは機能の多さではなく、現場で使い続けられることです。
最初から完璧を目指す必要はありません。
例えば、
- 顧客名
- 担当者
- 商談内容
- 現在の状況
- 次回アクション
- 次回連絡日
まずは、この程度から始めても十分です。
■CRMは「入力する仕組み」まで設計する
CRMを活用するには、
「各自、ちゃんと入力してください。」
だけではなかなか定着しません。
例えば、
商談終了後、その日のうちに入力する。
毎週の営業会議でCRMを見ながら案件確認をする。
次回アクションが入っていない案件は放置しない。
担当変更時はCRMを見ながら引き継ぐ。
このように、日常業務の中にCRMを組み込むことが重要です。
使うことが特別な作業ではなくなれば、自然と情報が蓄積されていきます。
■まずは「顧客情報の棚卸し」から始める
まだCRMを導入していない会社も、いきなりシステム選定から始める必要はありません。
まずは、「現在、顧客情報はどこにあるのか?」を確認してみましょう。
社長の名刺。営業担当者の手帳。Excel。メール。チャット。請求管理ソフト。社員それぞれの頭の中。
情報がさまざまな場所に散らばっているのであれば、そこがスタート地点です。
まずは、「会社として、どの顧客情報を一元管理したいのか」を決める。
その後で、自社に合ったツールを選べばよいのです。
■チェックポイント
- 顧客情報を会社として一元管理できているか?
- 商談や問い合わせの履歴を記録しているか?
- 担当者以外でも過去の対応内容を確認できるか?
- 各案件の「次のアクション」と期限を管理しているか?
- 顧客情報を営業・マーケティングの分析に活用しているか?
- 既存顧客への追加提案やフォローに活用しているか?
- CRMへの入力が日常業務の一部になっているか?
■顧客情報を「記録」から「経営資産」へ
顧客情報を集めるだけでは、会社は強くなりません。
大切なのは、記録する。共有する。分析する。
そして、次の行動につなげることです。
「このお客様には、そろそろ連絡しよう。」
「この業種からの問い合わせが増えている。」
「この商品を購入したお客様には、次にこの提案ができそうだ。」
こうした判断が、個人の記憶ではなく会社に蓄積された情報からできるようになれば、営業力は大きく変わります。
そして、会社が成長して社員や顧客が増えるほど、その差は大きくなっていきます。
CRMとは、単なるITツールではありません。
お客様との関係を会社の財産として積み上げ、次の売上と信頼につなげていくための経営基盤です。
まずは、自社のお客様に関する情報が「どこに」「どのような形で」残っているのか。
そこから確認してみてはいかがでしょうか。
更なる熱量を。
税理士事務所WATT 代表税理士 井深悠人
税務・会計・経営に関する無料相談を受け付けています。
「顧客情報をもっと経営に活かしたい」「営業活動を数字で管理したい」「売上・利益につながる仕組みを一緒に考えてほしい」など、経営に関するお悩みもお気軽にご相談ください。