はじめに
新しいお客様を増やすことは、会社を成長させるうえで非常に重要です。
広告を出す。営業活動を強化する。紹介を増やす。
多くの会社が、新規顧客を獲得するために時間とお金を使っています。
では、その一方で、「なぜ既存のお客様が離れていったのか?」をどれだけ把握しているでしょうか。
「価格が合わなかったのだろう。」「競合他社に乗り換えたのだろう。」「お客様側の事情だから仕方がない。」
そう推測するだけで終わってしまってはいないでしょうか。
解約には、必ず何らかの理由があります。
そして、その理由の中には、会社を強くするための重要なヒントが隠されています。
■新規獲得だけを追いかけても、会社は強くならない
例えば、1年間で100社の新規顧客を獲得したとします。
一見すると、素晴らしい成果です。
しかし、同じ1年間で80社が解約していたらどうでしょうか。
純増は20社に過ぎません。
さらに翌年も同じことを繰り返せば、新規顧客を獲得し続けなければ売上を維持できない会社になってしまいます。
これは、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けているようなものです。
水を増やすことだけを考えるのではなく、まずはバケツの穴を見つけて塞ぐ。
そのために必要なのが、解約理由の把握です。
■「解約件数」だけでなく「解約率」を見る
解約を管理するのであれば、件数だけでなく解約率も確認してみましょう。
例えば、年間10件の解約があったとしても、顧客数100件の会社と、顧客数1,000件の会社では意味がまったく異なります。
単純化すると、解約率 = 一定期間の解約顧客数 ÷ 期間開始時など基準となる顧客数といった形で把握できます。
大切なのは、自社に合った計算方法を決めて、同じ基準で継続的に確認することです。
「今年は何件解約したか?」だけではなく、「解約率は上がっているのか、下がっているのか?」まで追いかけることで、異変に早く気付けるようになります。
■解約理由を「分類」して蓄積する
解約が発生するたびに理由を聞いていても、その情報が担当者の記憶の中だけに残っていては十分ではありません。
例えば、解約理由を、
- 価格
- 商品・サービスへの不満
- 担当者への不満
- 対応スピード
- 競合への乗り換え
- 顧客側の廃業・事業縮小
- 利用頻度の低下
- その他
といった形で分類し、記録してみましょう。
半年、1年と蓄積すると、「価格よりも、実は対応スピードを理由とした解約が多い。」、「特定の商品だけ解約率が高い。」、「契約後6か月以内の解約が多い。」といった傾向が見えてくることがあります。
一件一件では分からなかった問題も、データとして蓄積すると経営課題として見えてくるのです。
■本当の解約理由は、一歩踏み込まないと分からない
お客様から、「料金の関係で解約します。」と言われたとします。
ここで「価格が原因」と記録して終わってしまうのは、少しもったいありません。
本当に価格だけが原因なのでしょうか。
もしかすると、「料金に対して提供されている価値を感じられなかった。」ことが本当の理由かもしれません。
あるいは、「他社の方が同じ価格で手厚いサービスだった。」のかもしれません。
だからこそ、可能であれば、
「差し支えない範囲で、今後の改善のために理由を教えていただけますか?」
「どのような点が改善されれば、継続をご検討いただけましたか?」
と、一歩踏み込んで聞いてみましょう。
解約を引き止めるためではありません。
次のお客様に同じ理由で離れていただかないために聞くのです。
■解約は「どのお客様が離れたか」まで見る
解約率が同じ5%でも、その中身によって会社への影響は異なります。
例えば、年間売上10万円のお客様が10社解約する場合と、年間売上100万円のお客様が10社解約する場合では、失われる売上は大きく違います。
さらに、
- 利益率が高い顧客
- 長期間利用している顧客
- 紹介を多く生んでいる顧客
- 今後の取引拡大が期待できる顧客
が離れているのであれば、より注意が必要です。
単純な解約件数だけでなく、「どのようなお客様が離れているのか」まで分析してみましょう。
■「解約の予兆」を見つける
解約は、突然起こるように見えて、実はその前に何らかの変化が起きていることがあります。
例えば、「問い合わせが減った」、「注文頻度が落ちた」、「担当者との面談が減った」、「サービスの利用率が低下した」、「以前より反応が薄くなった」、「クレームや問い合わせが増えた」などです。
こうした変化を把握できれば、解約の前にフォローできる可能性があります。
解約理由を蓄積していくと、「この状態になったお客様は、その後解約しやすい」という自社なりの予兆も見えてきます。
解約後に理由を分析するだけでなく、解約する前に気付ける会社を目指しましょう。
■解約ゼロを目標にする必要はない
ここで注意したいのは、「解約はすべて悪い」と考えないことです。
事業を続けていれば、一定の解約は発生します。
お客様の廃業や事業縮小など、自社ではどうすることもできないケースもあります。
また、自社の方向性と合わなくなったお客様との契約を無理に維持することが、必ずしも双方にとって良いとは限りません。
重要なのは、解約をゼロにすることではありません。
「防ぐことができた解約」を減らすことです。
そのためには、解約を感情的に捉えるのではなく、経営データとして冷静に分析する必要があります。
■解約理由を経営会議で共有する
解約が発生したとき、営業担当者だけが理由を知っている。担当者だけが反省している。
これでは、会社全体の改善につながりません。
例えば月次会議で、「今月の解約件数・解約率は?」「主な解約理由は?」「防ぐことができた解約はあったか?」「同じことを繰り返さないために何を改善するか?」を確認してみましょう。
解約を「失敗」で終わらせず、会社全体の学びに変える仕組みをつくることが重要です。
■チェックポイント
- 解約件数だけでなく、解約率を継続的に確認しているか?
- 解約時に理由を確認する仕組みがあるか?
- 解約理由を分類し、データとして蓄積しているか?
- 商品別・顧客層別・担当者別などで解約傾向を分析しているか?
- 解約の予兆となる行動変化を把握しているか?
- 解約理由を社内で共有し、具体的な改善につなげているか?
■解約は「終わった取引」ではなく、未来へのヒント
お客様から解約の連絡をいただけば、残念な気持ちになるのは当然です。
しかし、「仕方がない。」で終わらせてしまえば、その解約から得られるものはありません。
なぜ離れたのか。何が足りなかったのか。どこを改善できたのか。そして、次のお客様には何を変えるべきなのか。
一つひとつの解約に向き合えば、それは会社を改善するための貴重な情報になります。
新しいお客様を獲得することと同じくらい、今のお客様から選ばれ続ける会社をつくることが大切です。
そのために、まずは直近1年間の解約顧客を一覧にして、理由を書き出してみてください。
そこには、これから会社をもっと強くするための答えが隠れているかもしれません。
更なる熱量を。
税理士事務所WATT 代表税理士 井深悠人
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