はじめに
「営業は、できる人に任せている。」
「社長自身が営業すれば、ある程度は受注できる。」
中小企業では、このような会社も少なくありません。
しかし、会社が成長していくためには、営業を一部の人の経験やセンスだけに頼り続けることには限界があります。
問い合わせをいただいてから、商談、提案、見積、受注に至るまで。
「お客様がどの段階にいて、次に何をすべきなのか」を会社として把握できているでしょうか。
営業プロセスを可視化することは、営業担当者を管理するためではありません。
売れる理由、売れない理由を見つけ、会社として営業力を高めるための仕組みづくりなのです。
■営業を「結果」だけで見ていないか
営業会議で、
「今月の売上はいくらだった?」「何件受注できた?」という話だけをしていないでしょうか。
もちろん、売上や受注件数は重要です。
しかし、それらは営業活動の最終結果です。
売上が目標に届かなかったとき、「もっと頑張ろう。」だけでは改善につながりません。
例えば、売上が伸びない理由は、
- 問い合わせ自体が少ない
- 商談につながっていない
- 提案件数が少ない
- 提案しても受注できない
- 受注単価が低い
など、さまざまです。
どこに問題があるのかによって、打つべき手はまったく変わります。
だからこそ、売上という結果だけでなく、そこに至る過程を見ることが大切です。
■まずは営業の流れを書き出してみる
営業プロセスの可視化は、難しいシステムを導入することから始める必要はありません。
まず、自社のお客様が契約に至るまでの流れを書き出してみましょう。
例えば、
問い合わせ → 初回面談 → ヒアリング → 提案 → 見積提出 → 検討 → 契約
という流れです。
業種によっては、
見込み客発掘 → アポイント → 訪問 → サンプル提出 → 見積 → 受注
かもしれません。
重要なのは、自社なりの営業プロセスを明確にすることです。
営業担当者ごとに進め方がバラバラなのであれば、それ自体が改善すべきポイントかもしれません。
■各段階を「数字」で把握する
営業プロセスを書き出したら、それぞれの件数を確認します。
例えば、1か月間で、
問い合わせ 100件
↓
初回面談 60件
↓
提案 40件
↓
見積提出 30件
↓
契約 15件
だったとします。
この数字が見えるだけで、
問い合わせから面談への移行率は60%。
提案から見積への移行率は75%。
見積から契約への受注率は50%。
といった分析ができるようになります。
すると、
「問い合わせは十分にある。問題は面談につながる割合ではないか?」
「見積までは進んでいるので、提案内容や価格に課題があるのではないか?」
と、具体的な改善策を考えられます。
営業を感覚ではなく数字で考えられるようになること。
これが可視化の大きなメリットです。
■案件ごとの「現在地」も見えるようにする
営業プロセスでは、全体の数字だけでなく、一件一件の案件が今どこにあるのかも重要です。
例えば、
A社:見積提出済み・来週回答予定
B社:初回面談済み・追加資料待ち
C社:提案予定・担当者が日程調整中
といった状態です。
これが担当者の頭の中だけにあると、
「そういえば、あのお客様への連絡はどうなった?」
「見積を出したまま一か月経っていた。」
といったことが起こります。
Excelやスプレッドシート、CRMなど方法は問いません。
案件名・担当者・現在の段階・次のアクション・期限
だけでも共有しておけば、営業の抜け漏れは大きく減らせます。
■「次に何をするか」まで決める
営業管理で意外と抜けやすいのが、次のアクションです。
「商談中」「検討中」という情報だけでは、案件は前に進みません。
重要なのは、「誰が・何を・いつまでに行うのか」まで決めることです。
例えば、「8月31日までに担当者から見積書を送付する。」、「9月3日に社長から検討状況を確認する。」と具体化します。
営業案件が停滞する原因の一つは、お客様が断ったことではありません。
自社側の次の行動が決まっていないことなのです。
■成約率だけでなく「失注理由」も蓄積する
受注した案件だけを見るのではなく、失注した案件にも目を向けましょう。
例えば、
- 価格
- 提案内容
- 納期
- 競合他社
- タイミング
- 予算不足
- 決裁者へのアプローチ不足
など、失注理由を分類して蓄積します。
半年、1年と続けていけば、
「価格で負けていると思っていたが、実は提案スピードが原因だった。」
「特定の商品だけ成約率が低い。」
といった傾向が見えてくるかもしれません。
失注は単なる営業の失敗ではありません。
次の成約率を上げるための貴重なデータです。
■売れる営業担当者の「やり方」を会社の財産にする
営業プロセスを可視化すると、担当者ごとの違いも見えてきます。
例えば、
Aさんは初回面談から提案への移行率が高い。
Bさんは見積提出後の成約率が高い。
Cさんは紹介による案件獲得が多い。
この違いを、
「あの人は営業センスがあるから。」
で終わらせてはいけません。
なぜ成果が出ているのかを掘り下げ、
ヒアリング方法。
提案資料。
フォローのタイミング。
お客様への質問。
などを共有すれば、優秀な営業担当者のノウハウを会社全体へ展開できます。
個人の営業力を、組織の営業力へ変える。
これも営業プロセスを可視化する大きな目的です。
■売上目標を「行動目標」まで分解する
例えば、
「来月は売上1,000万円を目指す。」
という目標を掲げたとします。
これだけでは、営業担当者は具体的に何をすればよいのか分かりません。
仮に、
平均受注単価100万円。
見積からの成約率50%。
商談から見積への移行率50%。
だとすれば、
売上1,000万円には10件の受注。
そのためには20件の見積。
さらに40件程度の商談が必要だと考えられます。
もちろん実際には業種や案件によって異なりますが、このように分解すると、
「売上目標1,000万円」から「必要な商談件数40件」へと、現場が動ける目標に変わります。
営業プロセスの可視化は、目標を行動へ落とし込むためにも有効なのです。
■チェックポイント
- 問い合わせから受注までの営業プロセスを明確にしているか?
- 各段階の件数や移行率を数字で把握しているか?
- 一件ごとの案件が現在どの段階にあるか分かるか?
- 各案件の「次のアクション」と期限が決まっているか?
- 失注理由を記録・分析しているか?
- 成績の良い営業担当者のノウハウを共有しているか?
- 売上目標を商談件数などの行動目標まで分解しているか?
■営業を「職人技」から「会社の仕組み」へ
営業が強い会社には、売れる営業担当者がいる。
もちろん、それは大きな強みです。
しかし、本当に強い会社は、
「誰が担当しても一定水準以上の営業活動ができる仕組み」
を持っています。
問い合わせから契約までを可視化する。
数字でボトルネックを見つける。
失注理由から学ぶ。
成功事例を共有する。
そして改善する。
これを繰り返せば、営業は一部の人の経験や勘だけに頼るものではなくなります。
営業力とは、個人の才能だけではありません。
会社として磨き、蓄積し、再現できる経営資産です。
まずは現在進行中の営業案件をすべて書き出し、
「今どこにいて、次に何をするのか?」
を見えるようにするところから始めてみてください。
営業が見えるようになれば、次に打つべき手も見えるようになります。
更なる熱量を。
税理士事務所WATT 代表税理士 井深悠人
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