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2026.11.06

【第88回】税務調査に備えているか?

はじめに

「税務署から調査の連絡が来たらどうしよう。」

「税務調査って、何を調べられるのだろう。」

「税理士に任せているから、特に準備しなくても大丈夫だろう。」

経営者の皆さんは、税務調査について、このように考えたことはないでしょうか。

税務調査と聞くと、何となく怖いイメージを持つ方も多いかもしれません。

税務署の職員が会社に来て、帳簿や請求書を確認する。

経費の内容について細かく質問される。

場合によっては追加で税金を納めることになる。

こうした話を聞けば、不安になるのも無理はありません。

しかし、ここで考えていただきたいことがあります。

「税務調査が来たときに困らない経理・会計の仕組みを、普段から整えられていますか?」

税務調査への備えとは、調査の連絡が来てから慌てて資料を集めることではありません。

日々の取引を正確に記録し、適切な証拠資料を残し、税務上の判断根拠を説明できる状態をつくることです。

そして、こうした取り組みは税務調査への対策だけでなく、会社の経営管理を強くすることにもつながります。

今回は、中小企業の経営者に知っておいていただきたい、税務調査への備えについてお伝えします。


■税務調査は「悪いことをした会社」にだけ来るわけではない

税務調査というと、

「脱税を疑われているのではないか。」

「何か問題があるから調査されるのではないか。」

と考える方もいるかもしれません。

しかし、税務調査が行われること自体が、不正や脱税を意味するわけではありません。

税務調査は、申告内容が税法に基づいて適正に処理されているかを確認するために行われるものです。

例えば、

売上が正しい時期に計上されているか。

経費が適切に処理されているか。

資産の購入が正しく会計処理されているか。

消費税の計算に誤りがないか。

源泉所得税の徴収・納付が適切か。

といった内容が確認されることがあります。

もちろん、調査の結果、申告内容に問題がないと判断されることもあります。

一方で、意図的な不正がなくても、税法の理解不足や経理処理の誤りによって、追加の税負担が発生することもあります。

だからこそ重要なのは、税務調査を必要以上に恐れることではありません。

「いつ確認されても、取引の内容や会計処理の根拠を説明できる状態」にしておくことです。


■税務調査では何を確認されるのか?

税務調査の内容は、会社の業種や取引内容、申告状況などによって異なります。

ただし、中小企業では、次のような項目が重要な確認対象になることがあります。

① 売上の計上

商品を納品したのに売上を翌期に計上していないか。

決算日前後の売上計上時期は適切か。

現金売上や売掛金が正しく記録されているか。

② 経費の計上

事業に関係のある支出か。

請求書や領収書などの証拠資料があるか。

経費にすべきものと資産計上すべきものが適切に区分されているか。

③ 役員・関係者との取引

役員報酬の変更や役員賞与の処理は適切か。

役員個人の支出が会社の経費に含まれていないか。

役員や親族との貸借・売買に合理的な根拠があるか。

④ 棚卸資産・固定資産

決算日時点の在庫数量や評価は適切か。

設備や備品の取得価額、減価償却は正しいか。

除却・廃棄した資産の実態を確認できるか。

⑤ 消費税・源泉所得税

消費税の課税区分が適切か。

仕入税額控除に必要な帳簿や請求書等が保存されているか。

給与や報酬に関する源泉所得税の処理が適切か。

これらはあくまで一例です。

大切なのは、決算書に記載された数字の裏側に、説明できる取引の事実があるかどうかです。


■具体例①|決算日前後の売上は正しく計上されているか?

例えば、3月決算の製造業を考えてみましょう。

3月28日に商品100万円分を出荷したとします。

しかし、請求書を発行したのは4月5日でした。

この場合、

「請求書を発行した4月に売上を計上すればよい。」

と考えてしまうかもしれません。

しかし、税務上の売上計上時期は、単純に請求書の発行日だけで決まるものではありません。

取引契約や商品の引渡条件などを踏まえ、適切な時期に売上を計上する必要があります。

仮に3月中に売上を計上すべき取引であれば、4月の売上として処理することは適切ではありません。

こうした問題を防ぐためには、

納品書。

出荷記録。

検収記録。

契約書。

請求書。

などを整備し、決算日前後の取引を確認することが大切です。

「いつ請求したか」だけでなく、「いつ売上を計上すべき取引だったか」を説明できる状態にする。

これは税務調査への備えであると同時に、正確な月次決算を行うためにも重要です。


■具体例②|その経費、事業との関係を説明できるか?

例えば、会社の経費として10万円の飲食代が計上されていたとします。

領収書には、

飲食店名。

日付。

金額。

が記載されています。

しかし、それだけで十分でしょうか。

税務調査では、

誰と食事をしたのか。

どのような目的だったのか。

事業とどのような関係があったのか。

といった点を確認される可能性があります。

もちろん、事業に必要な接待交際費であれば、税法上の要件や損金算入の制限を踏まえて適切に処理することができます。

しかし、事業との関連性が説明できなければ、処理の妥当性を確認することが難しくなります。

そこで、領収書だけでなく、

参加者。

取引先名。

目的。

打ち合わせ内容。

などを記録しておくことをおすすめします。

特に高額な接待費や、役員個人の支出との区別が難しいものについては、日頃から確認しておくことが大切です。

領収書があることと、税務上適切な経費であることは、必ずしも同じではありません。

支出の事実だけでなく、その目的や内容を説明できるようにしておきましょう。


■帳簿や証拠資料の保存はできているか?

税務調査への備えとして、基本になるのが帳簿書類の保存です。

例えば、

総勘定元帳。

仕訳帳。

請求書。

領収書。

契約書。

納品書。

通帳や入出金記録。

棚卸表。

固定資産台帳。

などです。

法人税法上、法人は原則として、帳簿や関係書類を確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があります。

また、一定の欠損金が生じた事業年度などでは、10年間の保存が必要になる場合があります。

さらに、会社法など他の法令による保存義務にも注意する必要があります。

詳しくは、国税庁の「帳簿書類等の保存期間」も参考になります。

ここで重要なのは、単に保存しておくことではありません。

「必要なときに、必要な資料をすぐに確認できるか」ということです。

例えば、請求書が社長のメールボックスにしか残っていない。

契約書が担当者のパソコンにしか保存されていない。

数年前の資料がどこにあるのか分からない。

こうした状態では、調査時に大きな負担が生じます。

資料の保存場所や管理方法を統一し、会社として情報を管理できる仕組みをつくりましょう。


■電子データの保存にも注意する

近年は、請求書や領収書などを電子データでやり取りする機会が増えています。

例えば、

メールで受け取ったPDFの請求書。

クラウドサービスからダウンロードした領収書。

インターネット通販の購入明細。

電子契約書。

などです。

これらの電子取引データについては、電子帳簿保存法に対応した保存が必要になります。

単に印刷して紙で保存すればよいというわけではありません。

一定の要件に沿って、電子データを保存する必要があります。

具体的な保存方法や適用される措置については、会社の状況に応じた確認が必要です。

そこで、

電子取引データをどこに保存するのか。

誰が保存するのか。

必要なデータを検索・確認できるか。

担当者が退職してもデータを確認できるか。

といったルールを整備しましょう。

経理業務をデジタル化するのであれば、証拠資料の保存方法まで含めて仕組み化すること。

これが大切です。


■役員と会社のお金を明確に区分する

中小企業で特に注意したいのが、役員個人と会社の資金の関係です。

例えば、

社長個人の買い物を会社のカードで支払っている。

会社の支出を社長が個人資金で立て替えている。

社長と会社の間で頻繁に資金移動が発生している。

役員貸付金や役員借入金の残高が長期間整理されていない。

こうした状態では、取引内容の確認が難しくなることがあります。

また、役員に対する経済的利益の供与や、役員給与としての取扱いなどが問題になる場合もあります。

そこで、

会社の資金は原則として会社の支払いに使用する。

個人が立て替えた場合は、証拠資料を残して精算する。

役員との貸借は、発生原因と残高を管理する。

必要に応じて契約書や議事録を作成する。

といった対応が必要です。

会社のお金と経営者個人のお金を明確に分けることは、経営管理の基本です。

これは税務調査だけでなく、金融機関からの信用にも関わる重要なポイントです。


■毎月の会計処理を正確に行うことが最大の対策

では、税務調査に備えるために、経営者は何から始めればよいのでしょうか。

私が特に重要だと考えているのは、日々の会計処理と月次決算の精度を高めることです。

例えば、

毎月、売掛金と買掛金の残高を確認する。

預金残高と会計帳簿を照合する。

現金残高を実際に確認する。

仮払金や立替金を整理する。

不明な入出金を放置しない。

固定資産の取得や除却を適時に処理する。

こうした基本的な取り組みを継続することです。

例えば、会計帳簿に使途不明の支出があったとします。

支出した翌月であれば、担当者に確認すればすぐに内容が分かるかもしれません。

しかし、3年後に確認しようとしても、当時の担当者が退職していたり、誰も内容を覚えていなかったりする可能性があります。

だからこそ、疑問点は毎月解消しておく必要があります。

税務調査への一番の備えは、調査のためだけの特別な資料をつくることではなく、普段の経理・会計を正確に行うことです。


■税務調査の連絡が来たらどうする?

実際に税務署から税務調査の連絡が来た場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

実地の税務調査では、原則として事前通知が行われます。

ただし、一定の場合には事前通知を行わずに調査が実施されることもあります。

事前通知があった場合には、通常、

調査の開始日時。

調査場所。

調査対象となる税目や期間。

調査の目的。

などが伝えられます。

税務代理権限証書の提出状況や所定の同意の有無によっては、税理士に事前通知が行われる場合もあります。

詳しくは、国税庁の「税務調査手続に関するFAQ」でも確認できます。

税務調査の連絡が来た際には、次のように対応しましょう。

① 顧問税理士へ速やかに連絡する

調査の対象や日程、必要資料について相談します。

② 調査対象期間の資料を確認する

帳簿、決算書、請求書、契約書などの保存状況を確認します。

③ 事前に疑問点を整理する

会計処理の判断が難しかった取引や、説明が必要な取引について、事実関係を整理します。

④ 税理士と対応方針を確認する

調査当日の役割分担や、質問への対応方法などを確認します。

ここで注意したいのは、調査の連絡を受けたからといって、帳簿や証拠資料を事実と異なる内容に書き換えたり、後から架空の資料を作成したりしてはいけないということです。

誤りが見つかった場合には、事実関係を確認し、税理士と相談して適切な対応を検討する必要があります。

税務調査では、事実を正確に説明し、必要な資料を提示する姿勢が重要です。


■税理士との連携が重要

税務調査への対応では、税理士との連携が重要になります。

例えば、

調査対象期間の会計処理を確認する。

特殊な取引について税務上の判断根拠を整理する。

調査当日の質問に対応する。

税務署からの指摘内容を検討する。

必要に応じて修正申告などの対応を検討する。

といった場面です。

特に、税務署から指摘を受けた場合でも、その内容が税法上正しいかどうかを確認することが必要です。

取引の事実関係や適用される税法を整理した結果、会社の処理が妥当であると説明できる場合もあります。

その一方で、誤りが確認された場合には、適切な対応を取る必要があります。

また、税理士法第33条の2に基づく書面添付制度を活用する方法もあります。

これは、税理士が申告書を作成する際に、計算・整理・相談を受けた事項などを所定の書面に記載して添付する制度です。

一定の場合には、税務調査の事前通知に先立って税理士への意見聴取が行われる仕組みがあります。

ただし、書面添付を行えば必ず税務調査が省略されるわけではありません。

重要なのは、申告書の作成過程や税務上の判断について、根拠を明確にしておくことです。

税理士を単に申告書を作成する人としてではなく、日頃から会計と税務の適正性を確認するパートナーとして活用すること。

これが安心できる経営につながります。


■税務調査への備えは、経営改善にもつながる

ここまで税務調査への備えについて説明してきました。

しかし、これらの取り組みは、税務調査のためだけに行うものではありません。

例えば、

売掛金の残高を正確に管理すれば、回収遅延を早期に発見できます。

棚卸資産を適切に管理すれば、過剰在庫や不良在庫を把握できます。

固定資産台帳を整備すれば、設備の状況や今後の投資計画を確認できます。

役員と会社の資金を明確に区分すれば、財務状況の透明性が高まります。

月次決算を早期化すれば、経営判断のスピードが上がります。

つまり、

税務調査に耐えられる会計管理を整えることは、経営数字の信頼性を高めることでもあるのです。

そして、正確な数字を把握できる会社ほど、利益改善や資金繰り対策、経営計画の策定にも取り組みやすくなります。

税務調査への備えを、単なる守りの対策で終わらせない。

経営管理の質を高める機会として捉えることが大切です。


■チェックポイント

  • 日々の取引を正確に会計帳簿へ記録しているか?
  • 請求書・領収書・契約書などの証拠資料を適切に保存しているか?
  • 電子取引データを電子帳簿保存法に対応して保存しているか?
  • 決算日前後の売上や仕入の計上時期を確認しているか?
  • 経費について、事業との関連性や支出目的を説明できるか?
  • 役員個人と会社の資金を明確に区分しているか?
  • 売掛金・買掛金・棚卸資産・固定資産の残高を定期的に確認しているか?
  • 不明な入出金や仮払金などを放置していないか?
  • 消費税の課税区分や仕入税額控除に必要な証憑を確認しているか?
  • 特殊な取引について、税務上の判断根拠を整理しているか?
  • 税務調査の連絡が来た場合の対応方法を把握しているか?
  • 顧問税理士と日頃から会計・税務上の課題を共有しているか?

■まとめ|税務調査を恐れない会社をつくる

税務調査という言葉を聞くと、どうしても不安になるかもしれません。

しかし、税務調査を必要以上に恐れる必要はありません。

重要なのは、日々の取引を正しく記録し、税務上の判断を適切に行い、その根拠を説明できる状態にしておくことです。

売上を正しく計上する。

経費を適切に処理する。

帳簿や証拠資料を保存する。

会社と経営者個人の資金を区分する。

毎月、会計処理の疑問点を解消する。

そして、税理士と連携して適正な申告を行う。

こうした当たり前のことを、当たり前に続ける。

これが税務調査への基本的な備えです。

また、経営者の皆さんにお伝えしたいのは、税務調査への備えを、単なる税務上のリスク対策として考えてほしくないということです。

正確な会計処理ができている会社は、経営数字の信頼性が高まります。

経営数字の信頼性が高まれば、利益や資金繰りの状況を正しく把握できます。

その結果、経営判断の質も向上します。

税務調査への対策と、強い経営管理体制をつくることは、決して別々の話ではないのです。

まずは、自社の会計処理や資料管理を見直してみてください。

「3年前の取引について、税務署から質問されたら、根拠を示して説明できるだろうか?」

「もし明日税務調査の連絡が来ても、落ち着いて対応できるだろうか?」

この問いに自信を持って答えられないのであれば、改善できる部分があるのかもしれません。

しかし、最初から完璧を目指す必要はありません。

今月から証拠資料の管理方法を見直す。

月次決算の精度を高める。

不明な取引を一つずつ解消する。

税理士との情報共有を強化する。

そうした小さな改善を積み重ねていくことが大切です。

税務調査が来てから慌てる会社ではなく、いつ調査が来ても落ち着いて対応できる会社へ。

そして、正確な会計と適正な税務申告を土台として、より強い経営管理体制を築いていきましょう。

守りを強くすることが、攻めの経営を支える。

安心して成長に挑戦できる会社を、一緒につくっていきましょう。


更なる熱量を。
税理士事務所WATT 代表税理士 井深悠人

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