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2026.11.04

【第87回】事業承継の計画を立てているか?

はじめに

「まだまだ現役だから、事業承継は先の話だ。」

「いずれ息子に会社を継いでもらおうと思っている。」

「後継者が決まっていないけれど、何とかなるだろう。」

経営者の皆さんは、会社の将来について、このように考えたことはないでしょうか。

会社を経営していると、日々の売上、利益、資金繰り、人材採用、設備投資など、考えるべきことが山ほどあります。

そのなかで、事業承継はどうしても後回しになりがちです。

しかし、ここで一つ考えていただきたいことがあります。

「もし明日、自分が経営できなくなったとしても、会社は問題なく存続できるでしょうか?」

経営者自身が健康で、事業も順調なうちは、事業承継の必要性を感じにくいかもしれません。

しかし、事業承継は、経営者が引退するときに初めて考えるものではありません。

後継者の育成。

経営権の引継ぎ。

株式の承継。

金融機関との関係。

従業員や取引先との信頼関係。

こうしたさまざまな課題を整理し、計画的に進める必要があります。

事業承継とは、単に社長を交代することではなく、会社がこれまで積み上げてきた価値を、次の世代へつなぐことです。

今回は、中小企業が将来にわたって成長し続けるための事業承継について考えてみましょう。


■事業承継は「社長の交代」だけではない

事業承継というと、

「息子を次の社長にする。」

「専務に代表権を渡す。」

といったことをイメージするかもしれません。

しかし、社長の肩書を変更しただけでは、事業承継が完了したとは限りません。

事業承継では、大きく分けて次の3つを引き継ぐ必要があります。

① 経営の承継

経営理念、経営方針、意思決定、組織運営などを引き継ぐことです。

② 資産の承継

自社株式、事業用資産、会社に対する貸付金など、経営に関わる財産や権利関係を整理して引き継ぐことです。

③ 経営資源の承継

技術、ノウハウ、人材、取引先との関係、信用、ブランドなど、会社の競争力を支えるものを引き継ぐことです。

例えば、息子が社長に就任しても、会社の株式はすべて先代社長が保有しているかもしれません。

また、社長の肩書は変わっていても、重要な取引先との交渉や金融機関への対応を先代社長が続けているケースもあります。

これでは、実質的な経営の承継が進んでいない可能性があります。

「誰が社長になるか」だけでなく、「何を、いつ、どのように引き継ぐか」まで考えること。

これが事業承継計画の基本です。


■後継者は決まっているか?

事業承継を考えるうえで、最初に向き合うべきなのが後継者の問題です。

事業承継には、大きく分けて3つの選択肢があります。

① 親族内承継

子どもや親族へ経営を引き継ぐ方法です。

長年培ってきた経営理念や企業文化を引き継ぎやすいというメリットがあります。

一方で、親族だからといって、必ずしも経営者としての適性や承継する意思があるとは限りません。

② 役員・従業員承継

社内の役員や従業員へ経営を引き継ぐ方法です。

会社の事業内容や組織をよく理解している人材へ承継できる点がメリットです。

一方、自社株式を取得するための資金調達などが課題になる場合があります。

③ 第三者承継(M&A)

社外の企業や経営者へ会社・事業を引き継ぐ方法です。

親族や社内に後継者がいない場合でも、事業を存続させられる可能性があります。

また、譲受企業の経営資源を活用して、事業をさらに成長させられることもあります。

どの方法が最適かは、会社の状況や経営者の考え方によって異なります。

重要なのは、「子どもが継ぐはず」「誰かが何とかしてくれるはず」という思い込みだけで進めないことです。

後継者候補本人の意思を確認し、複数の選択肢を検討することが大切です。


■後継者の育成には時間がかかる

仮に後継者が決まっていたとしても、それで安心というわけではありません。

経営者に必要な能力は、簡単に身につくものではないからです。

例えば、

財務諸表を理解する力。

資金繰りを管理する力。

営業戦略を考える力。

人材を採用・育成する力。

取引先と交渉する力。

重大な経営判断を行う力。

こうした能力を、一朝一夕で身につけることは難しいでしょう。

だからこそ、早い段階から後継者に経営経験を積ませることが重要です。

例えば、

まずは一つの部門の責任者を任せる。

次に予算や利益の管理を担当させる。

その後、金融機関との面談や重要な商談に同席させる。

そして、徐々に経営判断の権限を移していく。

このように段階的に経験を積ませることで、後継者が経営者として成長していくことができます。

ここで大切なのは、先代経営者がいつまでもすべての判断をしてしまわないことです。

後継者を育てるためには、仕事を教えるだけでなく、実際に判断を任せることも必要です。


■自社株式の承継は早めに考える

事業承継において、税務・財務の面から特に重要なのが自社株式の承継です。

中小企業では、経営者自身が会社の株式の大部分を保有しているケースが多くあります。

会社が長年にわたって利益を蓄積している場合、自社株式の税務上の評価額が高額になっていることもあります。

例えば、創業時の資本金が1,000万円だった会社でも、業績が順調に成長し、純資産が積み上がった結果、株式の評価額が1億円を超えていることも考えられます。

では、その株式を後継者へ引き継ぐ際、どのような問題が発生するでしょうか。

親から子へ贈与すれば、贈与税の問題が生じる可能性があります。

相続によって承継する場合には、相続税の問題があります。

売買によって承継する場合には、後継者側で株式を取得するための資金が必要になります。

また、株式の評価額は、会社の財務状況や株主構成、評価方法などによって変わります。

そのため、単に決算書の純資産額を見ればよいというものではありません。

事業承継税制などの特例を検討できる場合もありますが、適用要件や期限、継続要件などを慎重に確認する必要があります。

「株式を誰に引き継ぐか」と「税負担や資金をどうするか」は、セットで考える必要があります。

そして、こうした対策ほど、早期に検討を始めることが重要です。


■株式が分散すると、将来の経営に影響することも

事業承継では、株式の承継先にも注意が必要です。

例えば、経営者に子どもが3人いるとします。

長男が後継者として会社を経営する予定です。

一方、相続財産の公平性を考え、会社の株式を3人で均等に分けようとしたとします。

一見すると公平な方法に思えるかもしれません。

しかし、会社の経営に関わらない親族にも株式が分散することで、将来の意思決定が難しくなる可能性があります。

株式には、原則として株主総会で議決権を行使する権利があります。

重要な経営判断に必要な議決権を後継者が確保できなければ、円滑な経営に支障をきたすことも考えられます。

もちろん、特定の相続人だけに株式を集中させれば、他の相続人との間で財産の公平性が問題になることもあります。

そこで、

後継者にどの程度の株式を承継させるか。

他の相続人へどのような財産を引き継ぐか。

遺言書を作成する必要があるか。

遺留分などへの配慮は十分か。

といった点を検討する必要があります。

事業承継は、会社の問題であると同時に、経営者個人と家族の問題でもあるのです。


■借入金と経営者保証も忘れない

中小企業の事業承継で、もう一つ重要なのが金融機関との関係です。

例えば、会社に1億円の借入金があるとします。

その借入金について、先代社長が個人保証をしている場合、社長を交代したからといって、当然に保証が解除されるわけではありません。

また、後継者にとっても、

「会社を継ぐことはよいが、多額の個人保証を負うことには不安がある。」

という場合があるでしょう。

こうした問題を放置すると、事業承継そのものの障害になることがあります。

そこで、早い段階から金融機関と相談し、

既存の経営者保証をどうするか。

後継者の個人保証を必要としない借入が可能か。

会社の財務体質をどのように改善するか。

会社と経営者個人の資産・資金の関係を整理できているか。

などを検討することが重要です。

経営者保証に関するガイドラインなども踏まえ、金融機関と丁寧に協議していく必要があります。

後継者が安心して経営を引き継げる財務環境を整えることも、先代経営者の大切な仕事です。


■具体例:65歳の社長が5年後の事業承継を考える場合

例えば、次のような会社があるとします。

年商:4億円

従業員数:25名

社長:65歳

後継者候補:35歳の長女

社長は、70歳を目途に経営を引き継ぎたいと考えています。

しかし、現時点では長女は営業部門を担当しているだけで、資金繰りや経営管理にはほとんど関与していません。

また、会社の株式はすべて社長が保有しており、自社株式の評価額も確認していません。

このような会社であれば、次のような5年間の承継計画が考えられます。

1年目|現状の把握と承継方針の決定

後継者本人の意思を確認する。

自社株式の評価額を把握する。

借入金や個人保証、会社と社長個人の貸借関係を整理する。

事業承継に向けた課題を洗い出す。

2年目|後継者の経営経験を増やす

長女に部門別の売上・利益管理を任せる。

月次決算報告や経営会議に参加させる。

重要な取引先や金融機関との関係づくりを始める。

3年目|経営権限の段階的な移譲

予算策定や採用、設備投資などの判断に関与させる。

幹部社員との新たな組織体制を整える。

株式の移転方法や資金計画を具体化する。

4年目|事業承継の実行準備

必要な株式移転や契約、社内手続きについて検討・実行する。

金融機関との協議を進める。

主要な取引先や従業員への説明計画を整える。

5年目|代表者交代と新体制への移行

代表者を交代する。

経営の最終的な責任と権限を後継者へ移す。

先代社長は必要に応じて相談役などの立場で支援する。

もちろん、これは一例であり、実際には株式承継や金融機関との協議をもっと早い段階で進める必要がある場合もあります。

大切なのは、「5年後に社長を交代する」という目標から逆算し、毎年何をすべきか明確にすることです。

事業承継も、経営計画と同じなのです。


■先代経営者が「任せる覚悟」を持てるか

事業承継で意外と難しいのが、先代経営者の気持ちの整理です。

長年、自分自身が中心となって育ててきた会社です。

会社のことは誰よりも理解している。

取引先との関係も深い。

社員からも頼られている。

だからこそ、後継者に任せることが難しい場合があります。

例えば、

後継者が決めたことに毎回口を出す。

重要な取引先との交渉をいつまでも自分で担当する。

従業員が後継者ではなく先代社長に相談する。

このような状態では、後継者が本当の意味で経営者になることは難しいでしょう。

もちろん、先代経営者の経験や知識は大きな財産です。

しかし、それを活かす方法は、必ずしも自分自身が経営の最前線に立ち続けることだけではありません。

後継者が失敗しそうなときに助言する。

重要な判断について相談に乗る。

取引先との関係を円滑に引き継ぐ。

こうした役割へ徐々に移行していくことも必要です。

後継者を信じて任せることも、事業承継を成功させるための重要な条件です。


■「社長しか知らないこと」を減らしておく

事業承継を進める際には、業務の属人化を防ぐことも重要です。

特に中小企業では、

重要な取引先との関係。

仕入先との交渉条件。

金融機関とのやり取り。

価格決定の基準。

採用や人事評価の方針。

などが、経営者の頭の中だけに存在していることがあります。

これでは、後継者が社長になったときに困ってしまいます。

そこで、経営者しか把握していない情報や業務を整理しておきましょう。

例えば、

主要取引先の一覧を作成する。

重要な契約書を整理する。

取引条件や価格決定の基準を明文化する。

組織図や業務分担表を作成する。

経営会議や月次決算報告を定例化する。

こうした取り組みは、事業承継だけでなく、現在の会社の経営管理を強化することにもつながります。

「社長がいなくても会社が回る仕組み」をつくることは、事業承継の準備であると同時に、会社を強くする取り組みでもあります。


■事業承継は「次の成長」を考える機会でもある

事業承継というと、会社を守ることに意識が向きがちです。

しかし、私は事業承継を、会社が新しい成長を目指す機会として考えることも重要だと思います。

例えば、

先代社長は既存顧客との関係づくりに強みがある。

一方、後継者はITやデジタルマーケティングに詳しい。

このような場合、先代社長が培った信用や事業基盤を引き継ぎながら、後継者が新しい販路やサービスを開拓することも考えられます。

また、世代交代をきっかけに、

経営理念を見直す。

組織体制を刷新する。

業務のデジタル化を進める。

新しい人材を登用する。

不採算事業を整理する。

といった改革を進めることもできるでしょう。

もちろん、先代経営者が築いてきたものを否定する必要はありません。

大切なのは、これまでの会社の強みを受け継ぎながら、次の時代に合った経営へ進化させることです。

事業承継は、単なる経営者の交代ではありません。

会社が次のステージへ進むための大きな転換点にもなり得るのです。


■事業承継計画は「いつか」ではなく「今」つくる

事業承継には時間がかかります。

後継者の育成。

株式の承継。

財務体質の改善。

金融機関との協議。

組織体制の整備。

こうしたことを、短期間ですべて完了させるのは簡単ではありません。

また、経営者がいつまでも元気に経営できるとは限りません。

突然の病気や事故などによって、予定より早く経営を引き継ぐ必要が生じる可能性もあります。

だからこそ、まだ現役で活躍しているうちから準備を始めることが大切です。

まずは、

何歳まで経営を続けたいか。

誰に会社を引き継ぎたいか。

後継者候補はどのように考えているか。

自社株式の評価額はいくらか。

会社の借入金や個人保証はどうなっているか。

という基本的な項目を整理してみましょう。

そして、3年後、5年後、10年後を見据えて、必要な取り組みを計画に落とし込んでいきます。

事業承継の準備を始めるのに、早過ぎるということはありません。


■チェックポイント

  • 経営者自身が、いつ頃まで経営を続けたいか考えているか?
  • 後継者候補が決まっているか?
  • 後継者候補本人の意思を確認しているか?
  • 親族内承継・従業員承継・M&Aなどの選択肢を比較しているか?
  • 後継者の育成計画を立てているか?
  • 自社株式の評価額や株主構成を把握しているか?
  • 株式承継に伴う税負担や資金調達について検討しているか?
  • 借入金や経営者保証の取扱いを整理しているか?
  • 経営者しか把握していない業務や取引関係を整理しているか?
  • 事業承継後の経営方針や成長戦略について話し合っているか?
  • 経営者が突然不在になった場合の対応を決めているか?
  • 事業承継について相談できる専門家がいるか?

■まとめ|会社の未来を、次の世代へつなぐ

会社を創業し、育て、成長させていく。

その過程には、経営者にしか分からない苦労や喜びがあると思います。

売上が伸びたとき。

初めて従業員を採用したとき。

大きな設備投資を決断したとき。

資金繰りに苦しんだとき。

重要な取引先との関係を築いたとき。

そうした一つひとつの経験が、現在の会社をつくっています。

しかし、どれだけ優れた経営者であっても、永遠に経営を続けることはできません。

だからこそ、いつかは次の経営者へ会社を引き継ぐ必要があります。

そして、その準備は決して簡単なものではありません。

後継者を育てる。

自社株式を承継する。

財務基盤を整える。

従業員や取引先との関係を引き継ぐ。

先代経営者自身が、経営を任せる覚悟を持つ。

こうした取り組みを計画的に進めることが重要です。

事業承継を考えることは、単に引退の準備をすることではありません。

会社がこれから先も成長し続けるための準備をすることです。

まずは一度、考えてみてください。

「自分が社長でなくなった後、この会社はどのような姿になっていてほしいか?」

「誰に、どのような思いを引き継いでほしいか?」

「その未来のために、今から何を準備するべきか?」

事業承継には、税務や財務の問題もあれば、人や組織の問題もあります。

だからこそ、経営者一人で抱え込まず、後継者候補や家族、幹部社員、専門家などと対話しながら進めることが大切です。

そして、事業承継の計画をつくることができれば、現在の会社の課題も見えてくるはずです。

社長に依存し過ぎている業務。

不明確な責任と権限。

整理できていない株式や財務上の問題。

不足している経営人材。

これらを一つひとつ改善していくことが、会社の経営基盤を強くすることにもつながります。

会社をつくることも大切。会社を成長させることも大切。そして、会社を未来へつなぐことも、経営者の大切な仕事です。

事業承継を「いつか考えること」にせず、今日から少しずつ準備を始めてみましょう。

これまで積み重ねてきた会社の価値を、次の世代へ。

そして、次の世代がさらに大きな価値を生み出せる会社へ。

事業承継を、会社の新しい成長の出発点にしていきましょう。


更なる熱量を。
税理士事務所WATT 代表税理士 井深悠人

税理士事務所WATTでは、税務・会計・経営に関する無料相談を受け付けています。

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