はじめに
「海外にも自社の商品を販売できないだろうか。」
「日本国内だけでなく、海外の市場にも挑戦してみたい。」
「海外から問い合わせが来ているけれど、どう対応すればよいか分からない。」
経営者であれば、一度はこうしたことを考えたことがあるのではないでしょうか。
日本国内では、人口減少や少子高齢化が進んでいます。
もちろん、国内市場にもまだまだ成長の機会はあります。
しかし、業種によっては、今後の国内需要の変化を見据えて、新しい市場を開拓する必要性が高まっていくでしょう。
その選択肢の一つが、海外展開です。
海外には、日本とは異なる文化やニーズ、消費市場が存在します。
日本では当たり前の商品やサービスが、海外では高く評価されることもあります。
一方で、海外展開には言語、商習慣、法規制、物流、為替、税務など、国内事業とは異なる課題もあります。
だからこそ重要なのは、
「海外へ進出するかどうか」だけでなく、「自社の商品や技術が海外で通用する可能性を検討しているか」
ということです。
今回は、中小企業の成長戦略の一つとして、海外展開の考え方についてお伝えします。
■「国内市場だけ」が自社の市場とは限らない
多くの中小企業は、国内の顧客を中心に事業を展開しています。
地域密着型の企業であれば、なおさらでしょう。
しかし、少し視野を広げて考えてみてください。
自社の商品を必要としている顧客は、本当に日本国内にしかいないのでしょうか。
例えば、
日本の食品や伝統工芸品。
高品質な金属加工技術。
精密な機械部品。
美容・健康関連の商品。
独自の技術を活かした製品。
こうした商品や技術には、海外でも需要が存在する可能性があります。
もちろん、すべての商品が海外で売れるわけではありません。
しかし、海外市場をまったく検討しないまま、
「うちは国内向けの会社だから。」
と決めつけてしまうのは、もったいないことかもしれません。
市場を国内に限定するのか、海外まで広げるのか。
この選択によって、会社の将来の可能性は大きく変わることがあります。
■海外展開は「海外に会社をつくること」だけではない
海外展開という言葉を聞くと、
海外に現地法人を設立する。
海外工場を建設する。
現地で従業員を採用する。
といった大規模な事業展開を想像するかもしれません。
しかし、海外展開にはさまざまな方法があります。
例えば、
① 海外への直接輸出
海外の取引先に対して、自社の商品を直接販売する方法です。
② 国内の商社を通じた輸出
海外販路を持つ商社などに販売を任せる方法です。
③ 越境EC
インターネットを活用して、海外の消費者に商品を販売する方法です。
④ 海外企業との業務提携
海外の販売代理店や現地企業と協力して、市場を開拓する方法です。
⑤ 海外拠点の設立
現地法人や営業拠点、製造拠点などを設け、本格的に事業を展開する方法です。
このように、海外展開にはさまざまな段階があります。
最初から大きな投資をする必要はありません。
まずは国内の商社を通じて輸出してみる。
海外の展示会で反応を確認する。
越境ECで小規模に販売してみる。
こうした取り組みから始めることもできます。
海外展開は、会社の規模に応じた方法を選ぶことができるのです。
■「日本で売れているから海外でも売れる」とは限らない
海外市場を検討する際に注意したいのが、日本国内での成功体験です。
例えば、日本国内で非常に人気のある食品があるとします。
品質が高い。
味も良い。
リピーターも多い。
だから海外でも売れるはずだ。
そう考えたくなるかもしれません。
しかし、海外では、
食文化が違う。
好まれる味が違う。
価格に対する感覚が違う。
商品パッケージの好みが違う。
販売される場所や購入方法が違う。
といった違いがあります。
例えば、日本では3,000円で売れている商品でも、海外では輸送費や関税、流通マージンなどが加わり、現地販売価格が大きく上がることがあります。
その価格でも購入してもらえるのか。
競合商品と比較して魅力があるのか。
現地のお客様が本当に求めているのか。
こうした点を確認する必要があります。
重要なのは、
「日本で売れている商品を海外へ持っていく」だけでなく、「海外のお客様が求める価値を提供できるか」と考えることです。
■最初に考えるべきは「どの国で、誰に売るか」
海外展開を考えるとき、
「とにかく海外に売りたい。」
という発想になってしまうことがあります。
しかし、海外といっても市場は一つではありません。
国によって、
人口。
所得水準。
経済成長率。
文化。
商習慣。
競争環境。
輸入規制。
物流環境。
などが異なります。
そのため、まずはターゲットとする国や地域を絞り込むことが大切です。
例えば、食品メーカーが海外展開を検討するのであれば、
日本食に対する需要があるか。
現地に販売代理店や取引先候補が存在するか。
食品の輸入に必要な手続きは何か。
輸送にどれくらいの時間と費用がかかるか。
どのような価格帯の商品が売れているか。
などを調べます。
また、同じ国でも、富裕層向けなのか、一般消費者向けなのかによって販売戦略は変わります。
「海外に売る」ではなく、「どの国の、どのようなお客様に、何を売るか」まで具体化すること。
これが海外展開の第一歩です。
■具体例:食品メーカーが海外販売に挑戦する場合
例えば、年商3億円の食品メーカーがあるとします。
国内では一定のブランド力を持ち、安定した売上を確保しています。
そこで、新しい成長の可能性として海外販売を検討することになりました。
経営者は、
「まずは海外で年間3,000万円の売上を目指したい。」
と考えています。
しかし、いきなり現地に店舗を構えたり、大量の商品を輸出したりするのはリスクがあります。
そこで、次のような流れで検討します。
① 対象市場を選ぶ
日本食品への需要、現地の競合商品、輸送条件などを調査し、対象国を絞り込む。
② 販売方法を検討する
現地の販売代理店を活用するのか、商社を経由するのか、越境ECを利用するのかを比較する。
③ 採算性を試算する
製造原価だけでなく、輸送費、通関費用、販売手数料、広告費などを含めた利益計画を作成する。
④ 小規模なテスト販売を行う
まずは少量の商品を販売し、現地のお客様の反応を確認する。
⑤ 数字を確認して拡大を判断する
販売数量、利益率、リピート率などを確認し、本格展開するかどうか判断する。
このように、一つひとつ検証すれば、大きな投資をする前に事業の可能性を確認できます。
重要なのは、
最初から大きく成功しようとするのではなく、小さな成功を積み重ねながら市場を広げていくことです。
■売上が増えても利益が残らない可能性がある
海外展開で特に注意したいのが、利益の計算です。
国内販売と海外販売では、必要な費用が大きく異なることがあります。
例えば、ある商品を海外へ販売するケースを考えてみましょう。
1個当たりの販売価格:3,000円
製造原価:1,200円
輸送費・通関関連費用:500円
販売手数料など:200円
この場合、1個当たりの限界利益は1,100円です。
仮に1,000個販売できれば、
売上高:300万円
変動費:190万円
限界利益:110万円
となります。
しかし、海外向けの商品パッケージ開発や広告、商談などに150万円の固定的な費用がかかっていれば、この販売数量では40万円の赤字です。
海外で売れたからといって、必ず利益が出るわけではありません。
さらに、
為替変動。
返品。
在庫保管。
現地での販促費。
代金回収リスク。
なども考慮する必要があります。
「海外でいくら売れるか」ではなく、「海外でいくら利益を残せるか」まで考えること。
海外展開も、最終的には数字による経営判断が重要なのです。
■為替変動は利益を大きく左右する
海外取引では、為替変動も重要なリスクの一つです。
例えば、米ドル建てで商品を輸出する場合を考えてみましょう。
売上金額が10万ドルだったとします。
1ドル150円であれば、円換算の売上は1,500万円です。
しかし、代金回収時に1ドル140円となっていれば、同じ10万ドルでも1,400万円になります。
円換算で100万円の差が生まれる計算です。
もちろん、反対に円安が進めば、円換算の売上が増えることもあります。
しかし、為替の変動を予測して経営することは簡単ではありません。
そのため、
円建てで取引できないか。
外貨建ての場合、どこまで為替変動を許容するか。
為替予約などを利用する必要があるか。
販売価格の見直しは可能か。
といった点を考える必要があります。
為替対策にもコストや制約があるため、取引内容に応じて検討することが重要です。
為替によって利益が大きく変わる取引であることを、経営者自身が理解しておくこと。
これが海外取引の基本です。
■税務・法務・規制への対応も忘れない
海外展開では、国内取引とは異なる税務・法務上の問題が発生することがあります。
例えば、
輸出に関する消費税の取扱い。
現地での関税や輸入税。
現地の法人税や付加価値税。
海外での事業活動に伴う課税関係。
海外子会社との取引価格。
取引先との契約条件。
現地の製品規制や許認可。
などです。
特に注意したいのが、海外に拠点を設ける場合や、海外子会社との取引を行う場合です。
事業活動の実態によっては、現地で税務申告が必要になることがあります。
また、海外の関連会社との取引では、移転価格税制などの検討が必要になる場合もあります。
さらに、輸出取引であっても、単に海外の顧客へ販売したという理由だけで、すべて同じ税務処理になるわけではありません。
取引条件や証憑、各国の制度などを確認する必要があります。
海外展開を始める段階から、税理士や弁護士、貿易実務に詳しい専門家などと連携しておくことが大切です。
事業が拡大してから問題に気付くのではなく、始める前にリスクを把握する。
これが海外展開を成功させるための重要な準備です。
■現地パートナー選びが成功を左右する
海外展開では、現地の商習慣や顧客ニーズを理解しているパートナーの存在が大きな力になることがあります。
例えば、
販売代理店。
卸売企業。
物流会社。
現地の製造委託先。
専門商社。
などです。
信頼できるパートナーと協力できれば、自社だけでは対応が難しい営業活動や物流、現地顧客への対応などを任せることができます。
一方で、パートナー選びを誤ると、
代金が回収できない。
販売活動が予定どおり進まない。
品質管理が徹底されない。
顧客情報が共有されない。
契約条件をめぐってトラブルになる。
といった問題が発生することもあります。
そこで、契約前には、
取引先の信用状況。
販売実績。
販売地域。
独占販売権の有無。
代金の支払条件。
返品や品質不良の責任。
契約終了時の取扱い。
などを確認する必要があります。
また、最初から特定の企業に販売を全面的に依存するのではなく、少量取引などを通じて信頼関係を築くことも一つの方法です。
海外展開は、自社の力だけでなく、誰と組むかによって結果が大きく変わることがあります。
■まずは国内から海外市場を調べてみる
海外展開を検討するために、最初から現地へ行く必要はありません。
例えば、JETRO(日本貿易振興機構)などでは、海外市場に関する情報提供や貿易・投資に関する相談支援が行われています。
また、
海外の競合商品を調べる。
海外ECサイトで販売価格を確認する。
現地の市場レポートを読む。
国内の商社に話を聞く。
海外取引の経験がある企業に相談する。
といった方法でも、検討のための情報を集められます。
大切なのは、いきなり投資をすることではありません。
まずは海外市場に自社の商品やサービスが通用する可能性があるかを知ること。
それだけでも、会社の将来について考える視野が広がります。
■海外展開にもKPIを設定する
海外展開を始めたら、国内事業と同様に数字で進捗を確認する必要があります。
例えば、
海外からの問い合わせ件数。
海外の見込み顧客数。
商談件数。
新規取引先数。
国別・商品別売上高。
国別・商品別粗利益。
リピート率。
代金回収期間。
などです。
特に重要なのは、海外事業の利益を国内事業と分けて把握することです。
例えば、会社全体では利益が出ていても、海外事業では赤字が続いているかもしれません。
反対に、海外事業が想定以上に成長している場合には、投資を拡大する判断もできるでしょう。
また、国ごとに売上や利益を管理すれば、
どの市場に力を入れるべきか。
どの市場から撤退すべきか。
どの販売方法が効率的か。
といった判断もしやすくなります。
海外展開を「挑戦した」で終わらせず、数字を使って育てていくこと。
これが大切です。
■海外展開しないという判断も立派な戦略
ここまで海外展開の可能性についてお伝えしてきましたが、すべての会社が海外へ進出する必要はありません。
国内市場で十分な成長余地がある会社もあります。
地域に密着することで、他社にはない競争力を発揮している会社もあります。
海外展開に必要な投資やリスクを考えた結果、国内事業に集中する方が合理的な場合もあるでしょう。
重要なのは、最初から海外市場を選択肢から外してしまわないことです。
自社の商品は海外でも需要があるのか。
どのような方法で販売できるのか。
どれだけの利益が見込めるのか。
どのようなリスクがあるのか。
これらを調べたうえで、
「今は国内事業に集中しよう。」
と判断するのであれば、それも立派な経営戦略です。
検討したうえで海外展開しないことと、検討せずに海外展開を諦めることは、まったく違います。
経営者として、選択肢を持っておくことが重要なのです。
■チェックポイント
- 自社の商品やサービスが海外で通用する可能性を考えたことがあるか?
- 海外展開の目的が明確になっているか?
- どの国・地域の、どのような顧客を対象にするか検討しているか?
- 現地の市場規模や競合商品、顧客ニーズを調べているか?
- 輸出・商社・越境EC・現地法人など、複数の方法を比較しているか?
- 輸送費・関税・販売手数料などを含めた利益計画を作成しているか?
- 為替変動や代金回収などのリスクを把握しているか?
- 現地の税務・法務・製品規制などを確認しているか?
- 本格展開の前に、小規模なテスト販売などを検討しているか?
- 海外事業の売上・利益を区分して管理できるか?
■まとめ|会社の可能性を、日本国内だけで決めつけない
日本国内には、まだまだ多くのビジネスチャンスがあります。
しかし、世界に目を向ければ、さらに多くの市場や顧客が存在しています。
自社の商品。
自社の技術。
自社のサービス。
これらを必要としている人が、海外にもいるかもしれません。
もちろん、海外展開にはリスクがあります。
言語の違い。
文化の違い。
商習慣の違い。
為替変動。
税務や法規制。
国内事業とは異なる課題に向き合う必要があります。
しかし、だからといって、最初から選択肢から外してしまうのはもったいないことです。
大切なのは、
「海外へ進出すること」ではなく、「自社の価値を届けられる市場を広く考えること」です。
まずは、自社の商品やサービスを一つ思い浮かべてみてください。
その商品は、日本以外の国でも必要とされるでしょうか。
どの国のお客様なら、価値を感じてくれるでしょうか。
どのような販売方法なら、少ない投資で試すことができるでしょうか。
そこから海外展開の可能性を考えてみるのもよいかもしれません。
今すぐ海外へ進出する必要はありません。
しかし、5年後、10年後に海外市場が自社の重要な収益源になっている可能性もあります。
今日の小さな情報収集や挑戦が、将来の大きな成長につながることもあるのです。
経営者の仕事は、今の事業を守ることだけではありません。
会社の新しい可能性を見つけ、未来の選択肢を増やしていくことも大切な役割です。
日本国内という枠だけにとらわれず、自社の強みを世界という市場から見つめ直してみる。
そんな視点が、新しい成長戦略のきっかけになるかもしれません。
会社の可能性に、最初から国境を設けない。
自社の強みを信じ、世界に目を向け、未来への可能性を広げていきましょう。
更なる熱量を。
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